2016年6月15日水曜日

2016年1月のマクロ的な経済問題(中村勝克ゼミによるレポート)

好評の中村勝克ゼミによる経済レポートです(2016年1月分)。



昨年の7月分のアップ以来、約半年に渡って中断していたレポートを再開したいと思います。なお今回の中断は、昨年12月の大阪市立大学と成蹊大学とのインターゼミ、および本学類主催ゼミ報告会に参加したためで、10月後半から12月中旬までの間、報告準備に重心を移し、ブログアップの方を休止させていた次第です。その甲斐もあって、インターゼミでは、本ゼミの学生と他大学の学生との間で高レベルの議論を交わすことができました(ちなみに、本ゼミは「ギリシャ問題の総まとめ」を報告しています)。

さて、今回のマクロ的な経済問題ですが、1229日~22日の期間から3つ選択しました。3つの内容とも現在進行形の話ですので、現時点においても十分に参考になります。
まず日本経済ですが「日銀、マイナス金利政策を導入」について、また先進国経済は「中国を「市場経済国」と認めるのか.欧州委、議論を開始」、そして新興国経済に関しては「イラン市場参入に独企業など熱視線、制裁解除受け」となっています。

今回の内容についても、敢えて執筆した学生の考え方を尊重しました。その上で各報告を確認してもらえれば幸いです。なお編集者(中村勝克)個人の見解(特にマイナス金利等の金融政策に関する見解)については、別の機会に書ければとも考えています。

ゼミにおける議論をベースにしているため、ピックアップされる話題は網羅的にならないこともあります。

内容について大きな誤り等がある場合はお知らせください。




【日本経済】

日銀、マイナス金利政策を導入
(日経新聞電子版・114日と29日の記事、日銀公式ウェブサイトを参照)

 日銀が、129日に開かれた金融政策決定会合で、マイナス金利政策の導入を決定した。マイナス金利政策とは、日銀の当座預金に預けられている一部の預金に対して、-0.1%の金利を適用するという政策だ。

 民間銀行は、準備預金の預け入れや他の銀行との決済のために、日銀に預金口座を開設している。これが日銀当座預金である。今回のマイナス金利政策では、日銀当座預金に預けられている一部のお金に対して-0.1%の金利を適用する。従来のプラスの金利は預金している側がお金を受け取るものであるが、マイナスの金利は預金している側がお金を支払うことになる。

 ただし今回、当座預金の残高全体にマイナス金利を適用するわけではなく、プラス金利適用、ゼロ金利適用、マイナス金利適用という3つのケースに分かれている。まずゼロ金利が適用されるのは、準備預金制度の所要準備額にあたる部分となる。またプラス金利が適用されるのは、これまでに預金された超過準備額にあたる部分で、これには引き続き+0.1%の金利が適用される(補完当座預金制度によって、これまでも所要準備額を超える残高には+0.1%の金利が付与されていた)。マイナス金利が適用されるのは、これまでに預金された所要準備額および超過準備額を超える残高分で、この部分に-0.1%の金利が適用される。

 ところで補完当座預金制度は、原則無利子である日銀当座預金の一部にプラスの金利を適用する制度で、200810月に導入された。他方でマイナス金利は、文字通り当座預金の金利をマイナスにするものである。なぜ日銀は、当座預金の金利をゼロに戻すのではなく、一気にマイナス金利の導入という大勝負に打って出たのか。

 幾つかのことが類推されるが、その要因の一つとして原油価格の下落が考えられる。アメリカのシェールオイル開発、中国経済の減速、中東情勢の変化などにより、原油の価格はここ数年で大きく下落した。原油価格の下落は、生産コストを縮小させ物価を下げる働きをする。そのため日銀の物価上昇率2%の目標が危ぶまれ始めており、今回、勝負をかけざるを得なかったと思われる。

物価上昇率2%の目標が達成できなければ、日銀は国民からの信認を失いかねない。国民のインフレ期待を重要視している日銀にとっては避けたいシナリオである。そしてマイナス金利政策は、金融政策決定会合で54と大きく意見が別れた末の賛成多数で導入が決定された。今回の決定は、苦渋の決断であったことが伺えると同時に、なんとしてでも目標を達成するという日銀の覚悟が見て取れる。(市場の失楽園)


【新興国経済(BRICS、アジア等)】

イラン市場参入に独企業など熱視線、制裁解除受け
(ロイター・118日の記事参照)

 欧米によるイランへの制裁が解除された。これに伴ってドイツ等欧米各国が幅広い業種で投資の機会をうかがっている。ドイツ自動車大手でみると、ダイムラーやフォルクスワーゲン傘下のアウディがイラン市場への参入を表明した。BMWは慎重姿勢を示しているというが、ドイツ政府は輸出信用保証制度(リスクの高い取引に対して政府が一定の保証をするもの)を復活させる予定であり、市場の拡大が見込まれる。

 中国や日本も例外ではなく、ビジネスチャンスをうかがう姿勢がみられるが、ここで注目せざるを得ないのが中東とアメリカの関係であろう。アメリカはこれまでイスラム教スンニ派盟主のサウジアラビアとの関係を強化させることで中東との関係を保ってきた。そもそもシーア派大国のイランの制裁の中心を担っていたのがアメリカであり、今回の制裁解除を受けて中東のバランスはどのようにして保たれるのだろうか。供給過剰による原油市場の不安定化、“イスラム国”との争いなど、問題が山積する中東において安定のもたらされる日は訪れるのだろうか。

 目まぐるしく世界が動くなかで、「今まで通り」や「定石」というものが通用しなくなっている。一方で、世界の経済がとどまることなく動き続けることに今後も変わりはないだろう。世界の経済主体は、これからも積極的に活動し続けることが求められる。(おいとま)

【先進国経済(北米、欧州等)】

中国を「市場経済国」と認めるのか.欧州委、議論を開始(ロイター・114日の記事、日経新聞・131日の記事参照)

中国を「市場経済国」に認定するかどうかという問題が今年に入って浮上してきた。この問題については日米欧の足並みがそろうかどうかが重要になってくるが、日米に先駆けて欧州では議論が開始されている。

欧州委員会は113日、このことについて正式に議論を開始した。中国を市場経済国と認めた場合、欧州連合は中国からの輸入に対し、反ダンピング措置を取りにくくなる。反ダンピング措置とは、ある国の「正常価格」を下回った不当に安い価格での輸出に対し、輸入国が正常価格と輸出価格の差額を上限とする反ダンピング税を導入するという措置である。

つまり、もし中国に市場経済国の地位を与えた場合、反ダンピング措置を取りにくくなり、安い価格の中国製品の輸入が増加し、製造業に深刻な影響を与えかねない。製造業の中でも、自動車部門、紙、鉄鋼、セラミック、ガラスなどの部門が最も大きな影響を受けるだろう。さらに、中国からの輸入が増加するために、EUでは多くの雇用が失われる恐れもある。このような懸念を欧州労働組合連合は持っており、それらを受けて一部の欧州委員は中国の市場経済国認定に反対の姿勢を見せている。

しかし、このような反対の意見がある一方、前向きな姿勢を見せている欧州委員もある。その理由は、中国に市場経済国の地位を与える見返りとして、EUの投資資金に中国マネーを呼び込む案があり、中国から外交成果を引き出す好機とみているからだ。

米国では中国に市場経済国を与えようという議論はほぼゼロに近い。米国の場合、認定の基準は商務省にあるが、為替操縦の有無など判断基準のハードルは高いとされている。しかし、中国を市場経済国と認定しなかった場合に大きな外交上の問題に発展する可能性もある。この問題は今後の経済外交に大きな影響を与えるだろう。日本はこのような状況の中どう動くのだろうか。これからの日米欧の動きに注目していきたい。(稲村)

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