2015年7月22日水曜日

ゼミ活動報告: 2015年6月のマクロ的な経済問題【番外編】(中村勝克ゼミによるレポート)


ギリシャをめぐる一連の“騒動”も、7月中旬を過ぎて、どうにか落ち着きを見せ始めました。経済学的なロジックで考えると、一時はギリシャのユーロ圏離脱の可能性も十分に高いと思われたのですが、いざ蓋をあければ“さもありなん”と言う結果。「最終的には地政学的な要因が強く働き、ギリシャはユーロ圏に留まった(または留まらせてもらった)」と本ゼミでは総括しています。
何れにせよ先月から今月(7月)の前半にかけてのギリシャの動向は、「時事問題をベースにしたマクロ経済学の研究」をテーマにしている本ゼミにとって、滅多には無い好題材であり、大変盛り上がった次第です。
なお、必ずしも経済ニュースを多く扱っていない一般的なニュース番組でギリシャ問題が大きく注目され始めたのは、およそ630日以降と言えます。ただ、それまでにもロイターや日経新聞などでは、この問題について継続的に報道されてきています。ギリシャの現状を理解するためにも、現在に至る流れを確認しておくことは意義があるでしょう。以下では、既に過去となった話題ですが、敢えて6月から7月初旬にかけての内容を学生にまとめてもらいました。参考にしてもらえれば幸いです。

ゼミにおける議論をベースにしているため、ピックアップされる話題は網羅的にならないこともあります。

内容について大きな誤り等がある場合はお知らせください。


【先進国経済(北米、欧州等)】

混乱極まるギリシャ債務問題の行方
(ロイター・日経新聞、6月および7月初旬の記事を参照

現在、世界中で最もその動向が注目されている経済問題の1つといえるのが、ユーロ加盟国ギリシャの債務返済に関わる問題である。残された時間がわずかとなる中、ギリシャ政府と債権団双方にとって最悪のシナリオを回避すべくぎりぎりの交渉が続けられた。国内外の不安の高まりを背景に混迷の度合いは増し続け、その影響は世界経済全体におよぶ危険性もあった。この問題の本質はどこにあるのか、またその背景にはどのような要因が考えられるか。ギリシャの現状を踏まえた今後の予測などを含め、いくつかの項目に分けて説明していきたい。

[ギリシャ政府が直面した問題とその背景]

ギリシャが抱える多額の債務の内、IMF(国際通貨基金)に対する15億ユーロ(約2100億円)の返済は6月末を期限としていた。返済がなされないまま期限を過ぎることは事実上の債務不履行に陥ることを意味し、様々な混乱を引き起こす恐れがあったため、この返済は非常に大きな焦点となった。

そのような中、ギリシャの改革が不十分であることから、EU(欧州連合)やIMFなどによる約72億ユーロのギリシャ向け融資が凍結された状態となり、6月のIMFへの返済は極めて難しい状況となっていた。両者の交渉が困難となった背景には、ギリシャの現在のチプラス政権が、反緊縮を掲げて誕生したという経緯があげられる。EUなどが支援の条件として求める財政改革や構造改革を受け入れることは、ギリシャ政府にとって公約を反故にすることを意味し、安易な妥協は政権基盤を揺るがす恐れがあった。デフォルトを避けて大幅な譲歩をすることにより生じるリスクと、金融上の大混乱を引き起こすリスク。チプラス首相は、そのいずれかを選ばなければならない板挟みの状況に陥った。

[債権団との交渉の経緯]

ギリシャ側が年金改革などを拒んでいたことで、債権団との協議は暗礁に乗り上げていた。ギリシャ政府は、中・低所得者の生活を直撃する政策の変更を含むEU側の提案を批判し、譲歩する考えのないことを強調していた。交渉打開の糸口が見出せないまま返済の期限は着々と迫り、デフォルト、ユーロ離脱という結果が現実味を帯び始めたかに見えた。
しかし622日のユーロ圏緊急首脳会議において、ギリシャ政府から新たな財政再建策が提出され、状況は好転の兆しを見せ始めた。この再建策には、段階的な定年引き上げや法人と富裕層への増税などが盛り込まれ、ユーロ圏首脳らから、数日中の合意に向けた土台になるとして評価された。交渉の時間切れが迫る中、ギリシャ側がある程度妥協する姿勢を見せたことで、当面の問題は収束に向かうかに思われた。
ところが624日、抜本的な再建策が含まれていないことを問題視する債権者側の一部が新たな再建策を拒否したことで、協議は再び難航する。金融支援の延長や、緊急流動性支援枠の引き上げが見送られたことを受け、チプラス首相は628日、国内銀行の休業と資本規制導入を発表した。さらに首相は、EU側の財政改革案の受け入れの是非を問う国民投票を75日に実施すると表明した。国民投票の結果次第ではデフォルト、ユーロ圏離脱へと一段と近づくことになる。チプラス政権は文字通り瀬戸際戦略を取った。

[国民投票の結果と情勢の変化]

IMFへの15億ユーロの返済は630日に期限を迎え、ギリシャは事実上のデフォルト状態に入った。国民投票に関しては、どちらの結果が出てもギリシャ政府にとって厳しい状況に追い込まれると思われたが、チプラス首相は国民に反対票を投じるよう呼びかけた。この国民投票はユーロ圏残留か否かの分かれ道ともなり得るため、反対が上回った場合には、EU離脱の意思表示であると全欧州が受け止めるということになりかねない。
首相の意図する方向性が不明瞭なまま国民投票が5日に行われ、反対61%という予想以上の大きな差で緊縮策の受け入れを拒否する結果となった。これにより債権団との溝はより深まり、ユーロ圏内での立場も危うくなる恐れがあった。ギリシャ情勢の混乱はさらに大きくなることも予想された。

しかしその一方、投票前から反対を呼びかけていたチプラス首相は、この投票結果を歓迎し、交渉再開に向けあくまで強気の姿勢を見せる。今回の結果がユーロ圏残留の是非を問うとの見方を否定し、国民の選択に対し「実行可能な解決策に向けた交渉力を強めるもの」との認識を示した。

[ユーロ圏の反応とその後の動き]

首相の期待通りの投票結果とはなったものの、それがギリシャにとって交渉を有利に進めるだけの具体的な要因とはならなかったようである。加盟国からは信頼できる提案を示すよう一層の圧力がかかり、ギリシャが新たな提案を示さない場合には、ユーロからの離脱を迫る動きもより鮮明になっていくと考えられた。ただ、ユーロ圏を離脱した場合の国内経済の混乱や国際金融への打撃の可能性も考慮すると、ギリシャが離脱を想定しているとは考えにくい。最終的にはギリシャ側が大幅な譲歩を受け入れて、ユーロ圏残留を選ぶことになった。

これまでのギリシャの交渉姿勢には、強気な態度をとりながらも国民の生活を重視し、ある程度の妥協を受け入れようとする意思も見られる。すでに国民に負担を強いている現状で、これからもギリシャが強硬姿勢をとり続ける可能性は低い。したがって近い将来、この問題が本当に収束を迎えるとするなら、それはギリシャがより歩み寄る形での決着になると予想する。ギリシャが自力で立ち上がる可能性を見出す上でも、債権団との今回の交渉は、ギリシャが越えなければならないハードルの1つに他ならないだろう。(strathisla)



0 件のコメント:

コメントを投稿