2012年3月2日金曜日

井本 亮 (准教授)海外の目から見た福島


今日は、現在、オーストラリア・クィーンズランド大学の客員研究員をされている、福島大学経済経営学類准教授の井本亮先生から寄稿頂いた文章を紹介します。これまでに転載しました『Gyroジャイロ』(http://www.worldvillage.org/)Vol.110.平成23年(2011年)12月号(公益法人福島県国際交流協会広報紙)の、井本先生の文章を受けて、新たに井本先生が2012130日に本ブログ用に作成してくださった文章を掲載します。


 

井本 亮 (准教授)


回、筆を執る機会と記事転載の許可をくださった福島県国際交流協会にお礼を申し上げます。そして、快くインタビューに答えてくれたクイーンズランド大学の学生と教職員、ブリスベンの知人のみなさんに感謝します。


提供:井本亮准教授(クイーンズランド大・キャンパス)

話を聞いていて実感したことは、あたりまえのことながら、「その国にはその国なりの事情があり、文脈がある」ということです。ですから、私たちと同じ視座にたって日本の、福島の現状を見てほしいとは簡単には言えないところがあります。

その後、オーストラリアの与党労働党はインドへのウラン輸出制限を解除する方針を決めました。オーストラリアは今後も原発を持とうとはしないでしょうが、ウランは経済的にも外交的にも重要な意味をもつ「輸出品」です。その一方で、オーストラリアのウラン鉱山はオーストラリア先住民アボリジニの土地にあり、内政的にはウラン輸出は先住民族の文化継承と権利につながる問題です。福島の東京電力原発事故についても、オーストラリア国内のさまざまな論点のなかに取り込まれ、解釈されていくことになります。

提供:井本亮准教授(ブリスベン川)

また、ブリスベンを含むクイーンズランド州は2011年1月、東日本大震災の2か月前に大規模な洪水災害に見舞われており、東日本大震災(特に津波について)は遠い北半球のこととは思えない実感をもって受け止めた人も多いようです。洪水について聞くと、「比較にはならないけど」と言いながら自身の洪水被害の様子や行政の動きについて話してくれました。クイーンズランドの洪水と東北地方の津波。ブリスベンにはこのような文脈もあります。

ですから、単純に「事実や情報が正確に伝わっているか」ということだけでなく、「事実や情報がどのような文脈のなかで受け止められ、解釈されているか」ということも考えていかなければなりません。これは日本国内においても、岩手・宮城・福島の3県でも、個人のコミュニケーションのレベルでも、基本的には同じことがいえるだろうと思います。

正直に言えば、オーストラリアの国内事情と福島の現状というテーマは、3.11以降の福島を経験してきたという個人的動機だけでは到底見渡すことのできない、多様な論点と文脈が複雑にからみあった問題です。しかし、人々と話をしていくうちに、お互いの認識や文脈の違いに気づかされることがあります。それは自分の立場の相対化につながる重要な理解です。
 
英語で‘If I were in your shoes,’「相手の立場になって考えてみれば」と言いますが、実際には相手の靴を履いてみるだけでなく、自分がどんな靴を履いてきたのかも忘れてはいけないでしょう。国や個人が抱えているさまざまな文脈を並べていくと、もはや短絡的な批判も安易な賛同もできなくなっていきます。しかし、自分の力で考え、よりよい判断と選択をしようとする人にとって、それは悪い傾向ではないはずです。私もより高い視座から広く物事を見渡すことができるように、見聞を広げ、残りの滞在を充実したものにしていきたいと思っています。
 

提供:井本亮准教授(ブリスベンフェスティバル)