2011年1月11日火曜日

中村 勝克(准教授)「海外の図書館事情」:オークランド大学 総合図書館


中村 勝克(准教授)

オークランド(Auckland)はニュージランドの北島にある国内最大の都市で、人口の4分の1強がこの都市の周辺に集中しています。ただ「4分の1の人口」と言っても、流石はニュージランド。人数的には約125万人、仙台市の人口規模よりも少し大きい程度です。街にはアメリカズ・カップで有名なオークランド港が在り、そこには大変立派なヨットが、まるで福島駅前の駐輪場の如く、日常的に幾つも停泊している状態です。また、港近くには、本来の意味でのダウンタウンが開けており、程よい喧騒が多くの人々の足を向かわせます。


一方、港の周りには、全面を美しい芝生で覆った丘陵が点在しており、街の真ん中から少し歩くだけでも、萌えるような芝の絨毯にしっとりと腰を下ろすことができるわけです。夏の休日ともなると、時々鳴る少し長めの汽笛を耳にしながら、その上で読書や昼寝をして、自分だけの時間を満喫する人たちをよく見かけます。ただ、大きな丘が点在しているということは街が起伏に富んでいることを意味し、私の住んでいたアパートから、研究室の在るオークランド大学に向かうのも、ちょっとしたハイキング気分でした。

オークランド大学は伝統のある大学で、ニュージランドのトップスクールの一つといえます。大学内の設備は大変充実しており、小高い丘の上のキャンパスには、学部・学科別の図書館が複数在りました。その中でも、多くの学生の利用する中心的な図書館が総合図書館(General Library)で、キャンパスの真ん中、丘の頂上から少し下った場所に、7階の建物がそびえています。もっとも多くの学生が利用するとは言っても、常に多数の学生でごった返しているというわけではなく、試験期間以外なら、誰もが十分に席を確保できる程度でした。おかげで、私も研究室とあわせて、総合図書館をゆったりと利用できた次第です。

なお、図書館内の表示は、全て英語と先住民であるマオリの言葉(マオリ語)が併記されていたことも印象に残っています。マオリ語も英語と同様ニュージランドの公用語のためですが、このような表示がニュージランドらしさを醸し出すと同時に、外から来た人々にマオリの歴史や文化に興味を抱かせるきっかけを与えている気もします。

ちなみに、マオリについてオーストラリアの先住民であるアボリジニーと混同してしまう人も時々いるようです。しかし、そもそもマオリとアボリジニーは、全く異なった歴史的背景を有しています。ニュージランド社会におけるマオリに対する差別は、オーストラリア社会におけるアボリジニーに対するものと本質的に違い、前者の方が相対的に小さいようにも映ります。もちろん程度の問題であり、貧困層の多くにマオリがいることから、社会には見えない壁が内在しているのも事実でしょう。

さて、オークランド大の総合図書館で印象深かったもう一つのことは、出入り口の管理です。しばしば警備員がいましたが、全くID等をチェックすることなく、みんな勝手に出入りできるようになっていました。まるで十数年前の日本における大学図書館みたいで牧歌的だなと微笑む一方、部外者がトラブルを起こしたりしないのか、多少気になったものです。

そんなある日、図書館のいつもの席に座っていると、吹き抜けになっている中央階段ホールから、突然、館内に響き渡る男の歌声が聞こえてきたことがあります。その歌は数分続いたのですが、業を煮やした一人の女性が「警備員は一体どこにいるの!!」と怒鳴ったため入り口の警備員が駆けつけ、程なく歌声は止まりました。警備員とのちょっとした言い争いの後、直ぐその男は追い出されましたが、男がマオリだったことに気が付いたのは出て行く彼の姿を見たときです。彼の歌自体は普通のポップスで、彼の行動に深い意味が有ったわけでは無いでしょう。ただそれにも関わらず、あの居心地を悪くする美声は奇妙な感情を私に植えつけ、結果、オークランド大学の総合図書館に関する忘れられない思い出の一つになりました。


提供:写真部(福島大学図書館 2010.11)