2009年4月8日水曜日

林 正(准教授):国境を超える研究者間の繋がり

林 正(准教授)

私は現在、世界各地に研究開発拠点を持つ多国籍企業において、どのようにしたら国境を越えて、技術的な情報や知識の共有ができるのかを研究しています。特に、各国に散らばった研究者同士の繋がりに注目して、この研究を進めています。

一般的に、何らかのネットワークで繋がった組織や個人は、繋がっていないものよりもネットワーク内部の情報にアクセスしやすいといわれています。学生生活では、同じクラスや、同じ部活に所属する友達とは、そうではない人よりも頻繁に情報を共有しますよね。多国籍企業で働く研究者の場合、同じ部署に属することによる繋がりや、共同作業の経験に基づく非公式的な繋がりなど、さまざまな繋がりがあります。では、どのような繋がりが国境や地理的距離を超えた技術的な情報の共有を促進するのでしょうか。

私が日欧米の多国籍企業の研究者とその米国特許を対象にして行った研究の結果によれば、国境を越えた研究者間の情報や知識の共有において、研究者間の過去の共同研究開発経験が重要になることが示されました。研究者は常に1人だけで孤独に研究活動を行うわけではありません。2人以上の研究者がともに同じゴールを目指して取り組む場合、共同研究者たちはともに膨大な時間を集中的に同じ研究作業に費やすことになります。それは、結果として共同研究者間の強い個人的な関係を生み出すことになります。この強い個人的な関係は共同研究という作業が終わった後も、簡単になくなるものではありません。たとえ、互いに住む国が異なり、遠く離れていたとしても、長期にわたって持続するのです。そんな強い個人的な関係を持つ研究者同士は、互いの地理的な距離が遠いために直接的に交流する頻度が少なかったとしても、貴重な知識や情報を共有し合うことができます。皆さんも大切な友達が遠くに行ってしまったからといって、その人が友達ではなくなり、会話が全くなくなる、ということはありませんよね。


企業の研究者はインターネットや社内データベースを活用することで、直接会話したことすらなくても、地理的に遠い所にいる他人の知識や情報を得ることができるとしばしば言われます。しかし、研究者は自分が貴重だと思う情報や知識をすべてオープンにするとは限りません。日常生活でも、あまり仲が良くなかったり、よく知らない人よりも、仲良しの友達との方が、自分や相手にとって重要だと思うことを話しやすいかと思います。自分が取り組んでいる課題について悩んだ時、あるいは何かヒントが欲しい時に素直に相談できる相手、そして相談を受けた際には問題解決のヒントとなる知識や情報を正直に提供できる相手。過去の共同研究者は、そんな役割を担っていると推測されるわけです。

今回お話しした内容と国際経営論の研究を絡めると、共同研究開発経験によって形成された繋がりを多く持ち、国境を越えた研究者間の情報共有を促進している多国籍企業は、そうではない企業よりも研究や製品開発の成果において優れているのか、ということが1つの問題となります。このことについては、講義においてお話したいと思います。